うまくいくデザイン作業には手順がある
人事異動で広報や企画に配置転換になった担当者が最初に戸惑うのは、これまで読者だった社内報やパンフレットなどの制作をいきなり任されることではないかと思います。
いままでただ読むだけだったものをこれからどうやってつくるのか。
上司も先輩も「あ、外注先の制作会社に頼めばいいからね」と軽く言います。
でも、制作会社の人も自動販売機ではありません。
「じゃあ、よろしく」とお願いすれば、社内報や会社案内パンフレットや会社のホームページが勝手にできあがるわけではありません。
一方、個人事業主や小さな会社の経営者さんなら、自分の事業や会社、お店のメニューやチラシ、ランディングページは、自社で内製、あるいは自分でつくりたいと考えるかもしれません。
最近では、MicrosoftのPowerPointやWardでつくったデータをPDF納品すれば、ものにもよりますが、ネットの印刷屋さんが数日〜数週間で納品してくれます。
さて、なにから手をつければよいのやら?
いや、手をつける前に、デザイン作業の進め方について知っておいてほしいのです。
デザイン作業のプロセス
デザイン作業には大きくわけて以下の3つの工程があります。
1. 考える工程(言語化)=企画
2. つくる工程(視覚化)=制作
3. 納める工程(完成へ)=納品
デザイン作業といっても、「2」のつくる工程だけではありません。
「1〜3」のすべてを含むことを覚えておいてください。
以下は基本的なデザイン作業の工程をチャートにしたものです。
あくまで「デザイン作業」のプロセスなので、デザイン作業に入る前の以下のような検討事項、
・どこに発注するか?
・予算はどうするか?
・スケジュールは?
・そもそもこの企画に着手すべきか?
および以下のような制作物納品後の検証事項
・制作物の効果は?
・社内外での評判は?
・今後につながる提案は?
といったことは含んでいません。
これはこれで重要なので、項を改めて解説します。
作業プロセスの重要性
デザイン作業の工程を知ることが、なぜ重要かというと、制作会社の規模や制作物の種類を問わず、おおむねこのような順序で進行するからです。
つまり、世界中のどんなに大きなデザイン会社でも、日本の地方在住、無名のフリーランスでも、手順はほぼおなじです。
また、制作物の規模がたとえば数千ページもある企業のECサイトのように大きくなれば、ひとつひとつの工程のなかで細分化されて、もっと複雑になりますが、基本のプロセスは小さな名刺1枚と大きく変わりません。
クリエイティブワークは、デザイン、ライティング、イラスト、写真、映像、スタイリング、ヘアメイク、印刷、プログラマーなど各分野の専門家がチームで協働して進めることが多いです。
手順を知らないで自己流で進めてしまうと、スケジュールの遅延や関係者間のコミュニケーションがうまくとれなくてトラブルの原因になることもあります。
だからこそ手順を知っておけば、時間的にも心理的にも余裕をもって作業を進められるでしょう。
デザイン作業をはじめる前に
いざデザインをしようとしても、うまくデザインできない、それどころかパソコンの前に座ったまま固まってしまうという人は珍しくありません。
新人デザイナーやノンデザイナーがやりがちな失敗のひとつが、いきなりデザインの実作業に入ってしまうことです。
デザインとは、目的をもって「思い」を「カタチ」にすることです。
「カタチ」にする前に、「思い」をあきらかにする必要があります。
デザイン作業 3つの工程
先に、デザイン作業には大きくわけて以下の3つの工程があると書きました。
上のチャートの左端にある「企画>制作>納品」の3つです。
どのステップも大切で、大事なことなので繰り返しますが、すべての工程が「デザイン作業」です。
1. 考える工程(言語化)=企画
すべての工程の土台で、木にたとえると根の部分にあたります。
木を見ると立派な幹や青々と茂る葉、咲き誇る花に目がいくものですが、大きな木ほど、広がる枝とおなじくらい、土の下で深く、広く根を張っています。
目的を達成できるデザインは、土台にあたる「企画」の部分がしっかりしています。
土の中の根と同じように表面的には見えないかもしれませんが、コピーやヴィジュアルが機能させているのは「企画」です。
とくにシリーズものやキャンペーンなどで、複数のツールが展開される場合、しっかりした「企画」がなければ成立しません。
上のフローチャートでは、STEP01〜03までを「企画」の工程としています。
クライアントから制作するものの目的や意図を聞き、それをもとにおおまかな完成予想をしてコンセプトを立て、リサーチをするまでを含みます。
自作する場合、クライアントは自分ですから、自分の考えを整理して方向を決める大事な段階になります。
デザインというと「ヴィジュアル」のことだと認識している人が多いかもしれませんが、なにもないところからいきなり「絵」がうまれるのではありません。
どんなヴィジュアルがふさわしいかを判断するために、徹底的に考え、言語化する段階です。
言語化というとプランナーやコピーライターの領域ではないかと思う人もいるでしょう。
デザイナーがアイデアを練る段階で求められる言語化は、気づきの明文化であったり、キーワード出しであったり、印象を言葉にすることで、まとまった文章を書くことではありません。
どんなデザインにも必ず「目的」があり、そのように設計された「理由」があります。
まずは、アタマのなかにある「もやっ」としたものを口にするところからはじめましょう。
2. つくる工程(視覚化)=制作
いよいよ実制作がスタート。
もっともデザイナーっぽい工程です。
フローチャートでは、STEP04〜07、手描きのラフデザインで全体の構成を絵にして、パーツとなる素材を集めたり、作ったりしてレイアウトし、それを出力してミスがないか確かめたり、わかりやすい表現にできないか、また全体のバランスチェックをするなどして調整しながら完成度を高めていく段階です。
ファッションデザイナーのコンペのリアリティショーで『プロジェクト・ランウェイ』というテレビ番組があります。そのメンター役で有名になったファッション・コンサルタントのティム・ガンの口グセが「カタチにしよう!(Make it work!)」。
ここはまさにカタチにする段階です。
デザイナー以外に、コピーライターやイラストレーター、フォトグラファーなどと協働する場合、この工程はコミュニケーションと進行管理がとても重要になります。
すべて自作する場合、作業のコントロールはしやすいですが、迷いやすくもあります。
だからこそ、いつでも原点に戻ることができるように、前段階である「企画」が大事なのです。
デザイン作業は、細かい小さな作業の積み重ね。
実り(成果物)のために、細い幹が層を重ねて太い年輪になっていく段階です。
3. 納める工程(完成へ)=納品
クリエイティブワークでたいせつなのは、クリエイターはどの段階にあっても「提出」ではなく「提案」の意識をもつことです。
クライアントがクリエイターに期待するのは、「提案」だからです。
いよいよ完成に向けて、「企画」という根から伸びた幹が大きく育って、葉をつけ、花を咲かせ、実をつける段階になりました。
上のフローチャートでは、STEP 08〜09、クライアントに初回提案を行い、修正、確認を経て最終的な仕上げをします。
印刷物であれば印刷所にデータを入稿し、色校正という刷り上がり見本を確認、修正を経て、OKとなればクリエイターの手を離れます。
印刷所から刷り上がりが届く。
WEBならサーバにデータがアップロードされて納品です。
※本項は順次、加筆修正します。