緊急事態宣言延長のため、出かけるタイミングを見計らっていましたが、ようやく行ってきました。
コシノヒロコ展 -HIROKO KOSHINO EX・VISION TO THE FUTURE 未来へ-、会場は兵庫県立美術館。
ファッションデザイナー、コシノヒロコさん(1937年、大阪・岸和田生まれ、兵庫・芦屋在住)が制作した洋服約250着と絵画約200点をオノマトペでタイトルをつけた14のパートにわけて紹介した作品展です。
ファッション×アート
展覧会としては珍しく、展示作品すべてを撮影できるため(フラッシュは使用不可)、たくさん写真を撮ってきました。
おなじみ“美(み)かえる”がお迎えしてくれるエントランスから館内へ。
最初にわたしたちを迎えてくれるのは、巨大な「ヒロコちゃん風船人形」。ここらへんから、「ただのファッション展覧会とちゃうからな!」というメッセージが聞こえてきて楽しい。
順路が「え、ここ通っていいんですか?」みたいに展示品に近い。
キャプションもついていなくて、これはファッションやデザインに詳しくない人も自分なりの視点で気軽に楽しんでもらうための配慮とのこと(ただし作品目録は無料配布あり)。
ということで、マイペースで会場をまわっていきます。
コシノヒロコさんは最初は画家になりたかったそうですが、許してもらえなかったので服飾専門学校に進学したことはよく知られています(お母さまの越野綾子さんをモデルにしたドラマ『カーネーション』でもそんなシーンがありましたね)。
会場はアートとマネキンが一体となっています。
小さな頃、絵描きになりたかった私が、長い年月を経て、今また絵に夢中になっています。それにはこんな理由もあります。私が描いた絵から発見した新しい形、新しいディテールが、私がつくろうとしている服とシンクロする時がある。「これって最高! すごく私らしい!」と思える瞬間です。また、布を熟知しているからこそ描ける絵というものがあります。自分でデザインした布の上に絵を描いたり、シーチングを石膏で固めて立体にしたり。新しい現代アートの世界をどんどん開拓してみようと思っています。
(トップクリエイターインタビュー コシノヒロコ Vol.4 SOW TOKYO THINK)
コシノさんが描いた絵画の前にマネキンを立たせて、それでひとつの作品として成立しているように見えます。
服が好きな人はアートより服に目がいってしまうかもしれませんが、スペースを贅沢に使って展示されている意味を考えながら会場をまわって、ぜひ「この服、おしゃれ!」「これ着てみたい!」以上の発見をしてほしいと感じました。センスを磨くって、そういうことだと思うのです。
ファッション×センス
ときどき「センスはどこからくるのか」について考えます。
センスの定義は、たびたび引用する水野学氏の「数値化できない事象を最適化すること」だとして、最適化するワザに興味があるんです。
日本の長唄には独特の間があります。この間は楽譜には書けないもので、演奏者が「あうん」の呼吸で合わせている。日本画も、見えるものを克明に描く西洋画とはまるで違う精神性に富んだ何かがあるでしょ。そういうものを自然に、私のつくる洋服のなかに生かしていきたいと常々思っています。三味線は名取ですが、プロになりたくてやってるわけじゃありません。すべてはファッションのため。もちろん、見る人がどう感じるかはその人の自由ですが、「ほかのデザイナーとは何かが違う」と思っていただけたら、うれしいですよね。
(トップクリエイターインタビュー コシノヒロコ Vol.5 SOW TOKYO THINK)
楽譜には書けない、デザイン画には表せない、文章では指摘できない、写真には写っていない。
でも、そこに「ある」「見える」と感じて、他人に伝わる形に表現できる力が、「センスの出所」ではないかとわたしは考えています。
「A.I.はクリエイティブな作業が苦手だから、クリエイターの仕事はなくならない」と言う人がいます。
それは誤解で、A.I.に奪えないのは、こうした「ない」ところから着想するセンスです。
コシノヒロコさんが制作した2000点のデザインを学習させれば、一瞬にしてそれなりのデザインにまとめてしまうテクノロジーが、いまのA.I.にはあります。
でも、和紙のドレス、墨絵のプリント、フェルトのスパンコールで浮世絵の色調を再現すること、さまざまな民族衣装に対する再解釈を最初に思いつくことはA.I.にはできません。
逆にいえば、コシノヒロコ風を真似するだけなら、A.I.デザイナーに職を奪われてしまいます。
だとしたら、もっとも大切なのは着想を得る力を高めることです。それが人間にしかできないことで、クリエイターはいつもそこを自問自答しながらつくっている気がします。
ファッション×着る人
ファッションは“流行”という意味なので、本来、服には時代が反映されているものですが、今回出品されているものには強い時代性を感じません。
会場に入る前の大階段に並べられた20点は1998年〜2012年、オーケストラをイメージした最後の展示室の106点は1995年〜2020年までの作品をミックスして展示されています。
若いころから、ものをつくるにあたっての思想が揺らいでいない自信はあります。ですからいつの作品でもフラットに扱うことができますし、テーマですんなりと分けられるんです。昔つくった服も、いま見たって古びていないでしょう。凝ったテキスタイルなのに形はとてもシンプルだったり、無地の布を使っているときは形で冒険していたりと、目指すところは一貫しています。
(honto+インタビューVol.23 コシノヒロコ)
時代性を強く感じない理由は、着る人の年齢、性別、国籍、民族、体型、社会的地位や職業といった属性を意識しないでデザインされるからだと思います。
コシノさんはファッションショー「GET YOUR STYLE!」で、公募による一般人モデルを起用しています。
一昨年開催されて大評判だったこのショー、今年はこの6月5日、6日に開催予定です。
ちなみに前回参加者の年齢の幅は11歳から95歳。身長の幅は146cmから176cm。車椅子のかたもいらっしゃいましたね。
出身地は日本国内だけでなく、中国、台湾、メキシコなど。
今年もきっと盛り上がるでしょう。
服の良さは着ればいちばんよくわかります。
着なくても、さわったり、近くで見るだけでもいろいろなことがわかります。
本展では触れることはできませんが、かなり作品に近寄って見ることができます。作品によっては縫い目の1本1本、パターンの取り方、装飾のつけかたなどもマネキンの後ろに回り込んで見られるスペースがあります。そのとき糸や布やビーズやボタンから、わたしたちはどれくらいのことを読み取れるでしょうか。
クリエイターの答えは、作品のなかにしかありません。それを読み取れるかどうか。
わたしたちもこの作品展に問われています。その答えは「未来において」着ることの意識を変えるかもしれません。
参考:
トップクリエイターインタビュー 肖像 コシノヒロコ(SOW TOKYO THINK Vol.1〜Vol.5)
honto+インタビューVol.23 コシノヒロコ
心に残る旅 コシノヒロコさんのアフガニスタン「私の人生に影響を与えてくれた遊牧民の暮らし」(朝日新聞デジタルマガジン “& Travel” 2021.06.01)
兵庫県立美術館「コシノヒロコ展」が再開 洋服250点、絵画200点展示(神戸経済新聞 2021.05.21)
神戸で開催、コシノヒロコ展 時代超える感性の力 アートとファッション「集大成」(毎日新聞夕刊 2021.04.26)
10時~18時(金曜・土曜は20時まで、ただし緊急事態宣言発令中は19時閉館)。
休 館:なし(通常時は月曜休館、ただし6月中は開催)。
観覧料:一般=1,800円、大学生=1,400円、70歳以上=900円、高校生以下無料。
公式サイト
※事前予約者の入館を優先。緊急事態宣言などにより開催時間・休館日を変更する場合があるため、事前に確認をお願いします。