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デザイナーにセンスはいらないー「センス不要論」にご用心

コーディングの勉強のために、訓練校やオンラインスクールについて調べたり、資料を取り寄せたりしました。そのなかに「デザイナーにセンスはいらない」と書いてあるものをいくつか見かけたので反論します。

「センス不要論」は、受講生に不誠実

直接、書いた人にクレームをつけようかと思ったのですが、そういう問題ではないと気づきました。

というのは、同様のノリで「ファッションセンスがなくてもスタイリストになれる」「文才や文章のセンスがなくてもライターになれる」「センスがなくてもフォトグラファーになれる」といったランディングページやブログを次々と見つけてしまったからです。

どうやら「××のセンスがなくても○○になれる」というコピーの型が流行っているのでしょう。

こんなふうに断言してハードルを下げ、受講生を集めたり、サービスを売ったりする人に憤りを感じます。受講生やお客さまに対して誠実ではないからです。


センスがないデザイナーは、ほんとうにいるのか

ものは試しで google検索したら「デザイナー、センス、不要」で 17,400,000件ヒットしました。せん・ななひゃく・よんじゅうまん!!

ちなみに「デザイナー、センス、必要」だと 4,640,000件。

ひと桁違いますね。
世の中、デザイナーはセンス不要であってほしい人のほうが多いということでしょうか。


センスが必要かどうかが気になるのは、デザイナーを職業として意識しているからだと思います。憧れたり、興味はあっても自分には無理そうと諦めていた人にとって「センス不要」は、チャンスを感じさせてくれる魔法のフレーズです。

そういうかたの本心は、「センスが必要といわれる職業につきたいが、センスには自信がない。でも、センスがなくてもなれるなら可能性があるかもしれないが、ほんとうだろうか」ではないでしょうか。

わたしは40年近くクリエイティブ業界の仕事をしています。
すこし脇道に逸れたこともありますが…だからこそ、いろいろなタイプのクリエイターを見てきました。

なので、実体験として言いますが、センスのないデザイナーはいます。
センスのないディレクターも、センスのないコピーライターも、センスのないスタイリストも、センスのないフォトグラファーも、センスのないモデルも、センスのないヘア&メイクアーティストも、センスのないイラストレーターも、います。
いるにはいます。

デザイナーに求められる、ふたつのセンス

実感的に、クリエイターに求められるセンスにはふたつあります。

ひとつは、自分が制作するもののセンス。デザイナーならデザインセンスですね。
もうひとつがクライアントやスタッフの意向を汲み取ったり、意思疎通をはかる力、いわばコミュニケーションセンスです。

デザイナーの場合、センスといえば前者をさすと思われがちです。そしてそれだけが「デザイナーに必要なセンス」と誤解されていることが、「デザイナーをめざすのはハードルが高い」と思われている一因でしょう。デザイナーに限らず、「センスなんて、うまれつきに違いない」と思っている人はすくなくないからです。


このセンスはふたつとも必要です。
前者があっても、後者がなければ、フリーランスにはなれません。
会社員であれば、営業が同行する場合もありますが、その営業担当者とうまくコミュニケーションがとれなければ、クライアントの意向に添うものはつくれないでしょう。

逆に、コミュニケーションセンスがよければ、ディレクターやプロデューサーになって、自分よりセンスのいいデザイナーに仕事をお願いすることもできます。

フリーランスになれば、デザイナーと営業を兼任することになりますから、自分でつくるセンス以上にコミュニケーションセンスが問われることになるでしょう。

じゃあ、コミュニケーションセンスがよければ、デザインセンスがイマイチでもいいかというと、そうはいきません。

クライアントの意向を正しく汲み取ることができても、さまざまな分野のクリエイターに的確に指示ができなければ、センスのいい成果物を仕上げるのは、やはり難しいでしょう。的確に指示できないディレクターやデザイナーが、できあがったものに対して的確なジャッジができるとは思えません。指示する段階で、クリエイターに信頼してもらえないでしょう。

どんな仕事にも求められるセンスとは

コミュニケーションセンスは、人と相対するすべての職業に必要です。
営業職や接客業の場合、コミュニケーションセンスの占める割合は高めでしょう。
その仕事に必要な固有のスキルとコミュニケーションセンスが3:7とか、2:8くらいかもしれません。

反対に、デザイナーよりもっと作家性の強いアーティストであれば、7:3とか、8:2くらいかもしれません。

デザイナーなどクリエイターにコミュニケーションスキルが必要なのは、クライアントあっての仕事だからです。
デザイナーの使命は、クライアントの要望を視覚化してメッセージを伝えるものをつくることです。

前者と後者が5:5とはいいませんが、6:4くらいのバランスで、ふたつのセンスがなければ、実務レベルの仕事を継続していくのは難しいと思います。

デザインセンスが重要でないのは初心者だけ

とはいえ初心者のうちは、センスの有無は大きな問題にはなりません。

また、クラウドソーシングの単価の低い案件を副業として続けていくレベルであれば、やはりセンスの有無は大きな問題にはならないでしょう。

シンプルなランディングページやバナー広告程度であれば、未経験者でもツールの操作方法を学んで、ノンデザイナー向けのやさしいデザイン入門書を2、3冊読んで実践できるようになれば、こなせるようになるでしょう。

ただ、経験の浅い人が手軽に始められるだけあって、このあたりの案件は単価がどんどん安くなっています。
初心者のうちに練習台として数をこなしたら、もっと複雑なものが制作できるスキルとセンスを磨きながら、知識を増やし、経験を積んでいていかないと、デザイナーとしてはいずれ淘汰されるでしょう。

ところがわたしが目にしたのは、こういう結論だったんですね。

・デザインはアートではないからセンスはいらない。

・デザインはルールを守り、型を真似ればできるからセンスはいらない。

・デザインは慣れや努力、根気があればできるからセンスはいらない。


いやいや、これが通用するのは、アシスタントや新人の頃だけ。もちろんそんなことは書かれていません。

プロとして続けていけばいくほど、デザインセンスを磨き続けなければならないと痛感します。40年近いクリエイター人生で圧倒的にセンスがいい同業者を前に、何度打ちひしがれたことか…。

それでも仕事が好きだから「もっと勉強しよう! もっとセンスを磨こう!」と気を引き締めてきました。

「いや、自分にはまったくセンスがなく、ルールを守って型を真似てるだけだけど、努力と根気だけでデザイナーをやって何年も稼いでいる」と言う人がいたら、デザイナーより稼ぎ方コンサルタントになるべきです。きっと稼ぐ「センス」は抜群でしょう。

そもそも「センス」とはなにか

それにしても「センス」とはなんでしょうか。

クリエイティブディレクターの水野学氏は、「センス」を以下のように定義しています。

「数値化できない事象の良し悪しを判断し、最適化すること」
(『センスは知識からはじまる』より)


さまざまな知識を蓄積することで「ものごとを最適化する能力」は磨くことができます。そのため、センスは特別な人に備わった才能ではなく、誰もが等しく持っていると氏は説きます。

「デザイナーにセンスは必要ない」と断言する人は、この引用も否定するのでしょうか。


ルールに忠実にモデリング(型の真似)を繰り返せば、ある程度の力は身につきます。
ただ、真似から脱することができなければ、型どおりのデザインしかできません。
型どおりのことしかできない人に、大きな案件の提案やディレクションはできません。

それで満足ならデザイナーではなく、モデラー(※)です。だとすれば、その人がやりたいのはデザインではなく、やはり金儲けでしょう。

誤解しないでほしいのですが、金儲けが悪いと言っているのではありません。金儲けならモデラーより費用対効果のいい方法があるのでは、と言いたいだけです。

デザイナーは初心者のうちは、高いセンスは求められません。
一般の人が思っているより、参入のハードルが低いのはたしかです。

そこに気づいた人たちが、前項で書いたように、モデラーとしてクラウドソーシングに多数参入し、デザイン単価を下げる原因をつくっています。まずは実績をつくるのが目的なので、単価は安くてもいいのです。

単価の高い仕事を受けられるようになるには、シンプルなバナーやランディングページだけでなく、数十ページあるWEBページのデザインやディレクションもこなせる必要があります。
そのためにはセンス以上に、さまざまな知識やスキルを身につけていく必要があります。
モデラーとして単価の低い仕事の数を山ほどこなしても、手は速くなるかもしれませんが、大きな案件をこなせる力量は身につきません。ディレクションには、それとはまったく別の「スキル」と「知識」と「経験」と「センス」が必要だからです。




「ツールの操作のうまさ」と「デザインセンスのよさ」は別の話

「デザイナー」と「センス」については、もうひとつ誤解があります。

もし、デザイナーにセンスが必要ないとしたら、それを売り物にしているデザインスクールや講座などは、なにを教えているのでしょうか。

カリキュラムやyoutubeで誰でも見られる動画の体験講座などから察して、おもに「デザインのルール」と「デザインツールの操作スキル」のふたつです。

まず、「デザインのルール」については、書店で入手できるノンデザイナー向けの書籍やブログ、オンライン講座などでも基本を独習することはできます。基本となるデザインルールは、対象が印刷物でもWEBでも変わりません。

それ以上にデザイナーに必須なのが、デザインツールの操作スキルです。印刷物ならAdobeのIllustratorやPhotoshop、ページ数の多いパンフレットなどはInDesign、WEBの場合はDreamweaverの操作ができなければお話になりません。

スクールや講座で多くの時間を割いているのは、その操作方法の習得と実習による作品制作です。
デザイナーになるのに資格はいりませんが、これらのツールの操作ができなければスタート位置に立つこともできません。ただ、ツールの操作は早くてうまい人がデザインセンスがいいかというと、まったくそんなことはありません。

操作スキルとデザインセンスの最大の違いは、正解が存在するかしないかでしょう。
効率的で合理的な操作の順序には、おおむね正解があります。手順を間違えば作業に時間がかかり、操作を間違えばデータが消えることもあります。

一方、デザインセンスは、正解かどうかジャッジする術がありません。あえていえば、商業デザインならクライアントの意向に添ったものが「正解」になるでしょうか、ちょっと釈然としませんが…(クライアントの主観によって左右される「正解」を「正解」といっていいものか)。

もちろん、デザインセンスがよくて、操作もうまいデザイナーもいますが、操作はイマイチだけど抜群にセンスのいいデザイナーも存在します。そういうデザイナーは自分の片腕になるオペレーターやアシスタントを抱えていることが多いです。

そう、ツールの操作に長けているけれど、デザインセンスに自信がない場合は、DTPオペレーターに。コードの記述に関する知識や経験が豊富ならコーダーにという進路はあります。どちらもディレクターやデザイナーのデザイン指示に基づいて、形に仕上げていく技術職です。高度なデザインセンスは問われないかわり、作業の速さ、ていねいさ、正確さ、注意力、作業に関わる他のどのスタッフにも扱いやすいキレイなデータをつくる力量など、デザイナーとは別のスキルやセンスが必要です。


ちなみに、デザインセンスにはあまり自信がないけれど、コツコツと地道な作業やツールの操作が得意で、稼ぎたいひとには、WEBデザイナーやコーダーよりWEBプログラマーをお勧めします。デザイナーとはすこし畑違いで、この記事では触れませんので、興味あるかたは「WEBプログラマー」で検索してみてください。

「センス」も「適性」も、結果論にすぎない

結局「センス」の必要性を気にする人がほんとうに知りたいのは、自分はその仕事に向いているか、ではないでしょうか。もっと言えば、その仕事で稼げるか、成功できるかどうか…。スクールだろうと独学だろうと、学ぶ以上、モノにならなければお金も時間もムダと考えるのでしょう。

正直なところ、向いているかどうかはやってみなければわかりません。やってみたいけど、センスに自信がなくて尻込みしているのなら、まずは学んでみればいいと思います。
お金が不安でも、いまは無料動画コンテンツも充実しています。いきなりプロをめざさなくても、SNSやブログでアピールすれば、応援してくれる友人が見つかるかもしれません。ココナラのようなマーケットを活用する方法もあります。

どんな職業であれ、「センス」より「適性」より重要なのは、本人の「やりたい気持ち」です。「センスがない」「向いていない」と忠告されてあきらめるくらいなら、やっても長続きしません。
一方、「なにがなんでもやってみたい!」人は、センスがあろうがなかろうが、つべこべ言わずに飛び込んできます。


長年、デザインに関わってきて、わたしよりはるかにセンスがいいのに、仕事をやめてしまった人もいます。センスは一生かかって磨き続けなければならないので、継続するには努力が必要です。その努力を楽しめない人は、センスはあっても適性はないのでしょう。

そういう人はデザイン以外のなにかに適性があると思います。たとえ短期間でも「本気で」デザインに取り組んだ経験を、それからの人生に活かすことができるはずです。


結局、「センス」も「適性」も現役の人に対して、周囲が納得する「理由」のような気がします。
まだ始める前の人が気にするのは、早すぎるのではないでしょうか。

センスは絶対に必要だが、すべてではない

デザイナーにセンスは絶対に必要です。
でも、センスがあればプロになれるわけではないし、センスだけでやっていける仕事ではありません。

とはいえ、センスがなくても学び続けることでセンスを磨き、向上させることはできます。
それはプロとして当然の努力です。また、その努力を一生かけて楽しみながら続けていけるなら、本業であれ、副業であれ、趣味であれ、デザインに関わることで人生を実りあるものにできるでしょう。


「デザイナーにセンスは必要ない」と言う人をわたしは信用しません。そう言う人は言葉どおり「センスがない」か「ウソを言っている」からです。
その人がもし講師だとしたら、学んでみたいですか。その人に学んだら、どんなデザイナーになると思いますか。

センスに自信がない人にもデザインに興味を持ってほしいとか、学ぶハードルを下げるためなら「デザインを学ぶのにセンスは必要ない」とか「センスは努力しだいで身につけられる」と書き直すべきです。それが受講生やお客さまに対する誠意です。


では、本日もアドバンストな1日を。



※モデラー:筆者による造語。3DCGソフトでキャラクターなどを立体的に作るCGデザイナーである3Dモデラーとは別。


参考記事:
「センス」という名の”呪縛”を”武器”に変えるには?
~クリエイティブ・ディレクター水野 学氏に聞く、ビジネスにおけるセンスとデザイン(Business Leaders Square Wisdom)
【水野学氏】センスは知識でできている(GLOBIS知見録 2017.01.23)

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