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【町山智浩さんセレクト+】クリストファー・ノーラン『TENET テネット』を解読するブックリスト

映画で画面に映る本には何らかの意味があるはずです。監督にインスピレーションを与えた本だったり、物語の謎を解く鍵が隠されていたり…。その本を知っている人にしか伝わらない、本の虫だけに向けられたウインクのようなものだと思います。
ー町山智浩(『映画と本の意外な関係!』P8「映画の本棚ーまえがきにかえて」より)


難しい、わからない、と言われつつ、リピーターを増産しているクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』。
映画評論家の町山智浩さんが1時間にわたって『映画その他ムダ話』#186『TENET テネット』で解説しています。
複雑な時間軸の謎や映画の矛盾点、セリフのやりとりに隠されたテーマにもしっかり触れているので、ぜひお聞きください。


アイデアソースになったと思われるさまざまな文学・哲学・思想・映画を紹介しながら、ノーラン監督が映画を撮る「動機」に迫っています。
そのラインナップがとても興味深かったので、リストにしてみました。

このリストには、上記で紹介されたものに、9月26日に行われた3時間にわたる解説ライブ配信(3時間って、映画本編の上映時間より長いじゃんね)のみで触れた作品も加えています。

映画人の多くは過去に観た映画に触発されて着想を得ることが多いのですが、町山さんによれば、ノーラン監督の場合は圧倒的に「本」なのだそうです。
インスピレーションの源になっているだけでなく、重要なモチーフとして本を使うことも。
それが、2014年の『インターステラー』。
冒頭の書棚のシーンには、すでに『TENET テネット』につながる導線も描かれていました(後述)。
ここはもう一度見直して、並んでいる本の書名をメモしておかないと(笑)。

1.  文学・哲学・思想作品

(文中の「補足」は、筆者の追記)

『時の矢あるいは罪の性質』(1991)マーティン・エイミス
時間が逆行する形式で書かれている、世界初の逆語り小説。
『インターステラー』冒頭の書棚のシーンに、この本が並んでいたそうです。本は、すべてノーラン監督の私物だとか。手の内を見せてくれていたわけですね。全然、気づきませんでした…。


『時間衝突』(1973)バリントン・J・ベイリー
時間を逆行する化石が登場。未来から来た薬莢や歯車などはこれがヒントとのこと。


『終着の浜辺』(1964JG・バラード
『時間衝突』より早く、未来から来た化石が登場。ノーラン監督の『インセプション』にも大きな影響を与えている作品だそうです。


『ユービック』(1969)フィリップ・K・ディック
時間が逆行していくSF小説。ディックやバラードなどは1960年代に流行ったインナースペースの探求をテーマに執筆をしていた作家です。


『空ろな人々』(1925) T.S.エリオット
※終盤のプロタゴニストとセイターのヨットでのシーンに引用されます。
補足:第一次大戦後のエリオットの絶望感を詠んだといわれます。『地獄の黙示録』で、カーツ大佐が朗読しているのもこの詩の一節。

『四つの四重奏』(1943)T.S.エリオット
補足:ノーラン監督の『インターステラー』の本棚から飛び出す9冊の本のなかに『T.S.エリオット選集』がありましたね。


『弁神論』(1710)、『モナドロジー・形而上学叙説』(1714)ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1710)
補足→ライプニッツは、「この現実世界はあらゆる可能世界の中で最善である」という最善説を唱えました。
哲学・論理学におけるパラレルワールドの概念が、可能世界論として語られるようになったのは、ライプニッツが起源といわれています。
予定調和説は『モナドロジー』にくわしい。



『不安の概念』(1844)、『死に至る病』(1849)  セーレン・キルケゴール
※キルケゴールは単語として“leap of faith”とは書いていないのですが、思想としての「飛翔」について、さまざまなところで言及しています。
補足:ということで町山さんの解説には書名がないのですが、「信仰への飛翔」については『不安の概念』、ニヒリズムと絶望については『死に至る病』をあげてみました。



『スノウ・クラッシュ』(上)・(下) ニール・スティーヴンスン(2011
作家がニールで、登場人物の名前が、ヒロ・プロタゴニスト。
町山さんによれば、登場人物の名前の元ネタはこれではないかと、ノーラン監督に取材する機会があれば確認しておきますとのこと。
さすが(笑)。

2. 『TENET テネット 』のあとで観たい映画


『メメント』(1999)クリストファー・ノーラン監督 
『時の矢』の影響を強く感じる、『TENET テネット』に通じる作品。



『インセプション』(2010)クリストファー・ノーラン監督
TENET テネット』でノーラン監督自身をニール役のロバート・パティンソンに投影しているように、この作品ではその役割をレオナルド・ディカプリオが担っています。
また、妻モル(マリオン・コティヤール)が夫コブ(レオナルド・ディカプリオ)に対して“Take a leap of faith!(信じて翔びなさい!)”と呼びかけるシーンもあります。

 

『インターステラー』(2014)クリストファー・ノーラン監督
補足書棚の本の中に『TENET』にも関係するものがあったということは、次回作以降にも登場するかも。
ちなみに本棚から落ちてきた9冊の本は以下の通り。

・『蜂工場』イアン・バンクス
・『T.S.エリオット選集』T.S.エリオット
・『ザ・スタンド』スティーヴン・キング
・『重力の虹』トマス・ピンチョン
・『エマ』ジェーン・オースティン
・『五次元世界のぼうけん』マデレイン・レングル
・『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス
・“The Go-Between”L.P.ハートレー(邦訳なし)
・『フラットランド』エドウィン・A・アボット

ノーラン監督、いつか『重力の虹』を映像化してくれないかな…でも、ユーモアセンスがイマイチだから期待薄か…(ゴメンナサイ)。



『ラ・ジュテ』(1962)クリス・マルケル監督
SF映画の定番設定因果のループを最初に描いた作品といわれています。
因果のループについては、『ターミネーター』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『メッセージ』『インターステラー』なども参照のこと。

  


『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン監督
leap of faithがわかりやすく登場。
主人公が大きく成長・変貌するために飛躍が必要なことを「崖など高いところから飛び降りる」シーンとして象徴的に描かれることが多いそうです。


『恋はデジャ・ブ』(1993)ハロルド・レイミス監督
※同じ日を際限なく繰り返すことになった男を主人公にしたコメディ。
レイミス監督は、ニーチェの永劫回帰をヒントにしたとのこと。
哲学的な題材をベースにしながら、エンターテインメントとして成立しているところが『TENET テネット』と共通しています。


『去年マリエンバードで』(1961)アラン・レネ監督
時間軸が錯綜するところが、『TENET』に共通する味わいを感じます。
『メメント』の作風や『インセプション』のポスターのビジュアルに影響を与えていることからも、ノーラン監督お気に入りの1本と思われます。
補足→衣装は当時ファッション界に復帰したココ・シャネル。
昨年、シャネル社の全面サポートで完全修復した、4Kデジタル・リマスター版が公開されました。



3.  おまけ:クリストファー・ノーランを研究するために


ノーラニストと呼ばれる熱狂的なファンを持つだけあって、ノーラン監督自身の研究本も出ています。
町山さんの本2冊と雑誌ケトル以外は未読ですが、タイトルにすでに作家性が仄見えているところがおもしろい。

ポップ・ミュージックではデヴィッド・ボウイが芸術性と大衆性を融合させて大成功した数少ないアーティストだと思いますが、映画人だと現時点ではノーラン監督がその立ち位置に最も近い気がします。
ふたりとも業界きっての読書家というのも共通点。
ボウイとノーラン監督に共通する愛読書ってなんだろう。
すごく興味が湧きますね。

『クリストファー・ノーランの嘘ー思想で読む映画論』トッド・マガウアン(2017)
『インターステラー』までの全9作品を思想・哲学的な視点で解説。
かんじんの『TENET テネット』がありませんが、自分なりの解を見つける手助けにはなりそうです。

 

『SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座』 ジェームズ・キャメロン、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、クリストファー・ノーラン、ギレルモ・デル・トロ、リドリー・スコット、アーノルド・シュワルツェネッガー (2020)
ハウツーを教える本ではなく、それぞれの創作観について語っている本のようです。
翻訳本のタイトルには、えてしてそういう齟齬がありますが、ノーラン監督以外にも魅力的なメンバーなので、SF映画の現状を俯瞰することで、それぞれの監督の作家性が際立ちそうです。




『メイキング・オブ・TENET テネット クリストファー・ノーランの制作現場』
ジェイムズ・モトラム (2020)
映画公開と同時に限定3000部が、文字通り「あっ」という間に完売。
現在メルカリやアマゾンのマーケットプレイスでも定価6,600円の2倍以上の価格がついています。
これは当分下がりそうにないですね。
ヴィジュアルブックなので、英語をある程度読めるなら原書でもいいかも。



『ケトル VOL.56 クリストファー・ノーラン特集』 (2020)
10月15日に発売されたばかりのカルチャー誌。
全作品10作に加え、影響を与えた監督や作品、キーワードになるモノやコトなどが約70ページにわたって特集されています。
残念なのは、監督本人のロングインタビューが掲載されてないこと。
そこを除けばキンドル版もあるので、いますぐ最新の情報がほしいなら、これがいちばんコストパフォーマンスが良さそう。



『映画と本の意外な関係!』(2016)、『最前線の映画を読む』(2018) 町山智浩
ネタにさせてもらったので、敬意を表して町山さんの本を2冊紹介します。
『映画と本の意外な関係!』には『インターステラー』の、『最前線の映画を読む』には『ダンケルク』の解説があります。
『TENET テネット』に至る道筋として、この2作の背景を知っておくと、ノーラン監督の良い意味で「たくらみ」に近づけるでしょう。
ノーラン作品以外にも、近年の話題作がたくさん取り上げられているので、映画好きな人が「おもしろかった!」から踏み込んで「なぜおもしろかったのか」を自分の言葉で語るには、最高の教科書であり、お手本だと思います。




で、じつは町山さん同様、誰かの本棚に並ぶ蔵書が気になります。
わたしも本棚のなかみは、持ち主のアタマのなかみだと思ってますから。
というわけで、『アメリカの今を知るTV』やライブ配信のたびに入れ替わる背景の蔵書がいつも楽しみです。

いつか『ムダ話』で、町山さんのおすすめ本特集とかもやってほしいなー。


 

 

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