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灰色の時代〜『いだてん〜東京オリムピック噺〜』第43回 ヘルプ!

大河ドラマ『いだてん』ブログをお送りしています。



オリンピックを盛り上げるため、まーちゃんはテレビ寄席で「オリンピック噺」を披露していた五りんを広報担当に任命。女子バレーボールも正式種目として認められる。そんな中、オリンピックの前哨戦といわれるアジア大会で大問題が。なんと開催国のインドネシアが台湾とイスラエルに入国許可を与えていないという情報が。それが事実ならIOCはアジア大会を国際大会として公認しないと表明。日本が参加しなければ大会は事実上中止、参加すれば制裁として東京オリンピックが中止に?!  ところがこんなときに限って国際電話が通じず、現地の日本選手団は前進も後退もできない大ピンチのさなか、暴徒と化したジャカルタ市民がホテルを襲撃。まーちゃん、絶体絶命!   


<あらすじ> 開催まで2年。国民のオリンピック熱は盛り上がりに欠けていた。テレビ寄席の「オリンピックばなし」に目を付けた田畑(阿部サダヲ)は五りん(神木隆之介)を呼び、広告塔に任命する。組織委員会では準備が本格化。アジア各都市を回る聖火リレーの最終ランナーの候補に金栗四三(中村勘九郎)が浮上する。田畑はジャカルタで開催されるアジア大会を席巻せっけんし、五輪開催にむけ勢いをつけようともくろむが、開幕直前に大問題が発生する。
NHK公式サイトより)

 

スポーツと政治のスブズブな関係

久しぶりに『いだてん』は「敗者の物語」だったことを思い出しました。まーちゃん史上、最大のピンチです。

そしてこのピンチを救ったかにみえたのが、通訳のアレン。まさかの一本背負いで暴徒を蹴散らし、日本選手団を守ります。

アレンについてはなんの情報もありません。日本選手団に通訳はいたはずですが、ドラマオリジナルの架空のキャラクターである可能性が高い。彼が通訳をしている事情や背景については、なんの説明もなかったので、こんなふうに想像してみました。

おそらく、彼はどこかで柔道を知り、道場に通い、柔道を通して日本語を学んだ。その過程で、治五郎さんに会っているかもしれません。たとえば、インドネシアの柔道イベントあたりで投げ飛ばされているとか。彼はやがて「逆らわずして勝つ」柔道精神を身につけ、もしかしたら地元で柔道を教えていたりして。

アジア大会が開催されることになり、日本語が話せて、日本のスポーツにも通じているということで、選手団の通訳に起用されたに違いありません、いや、知らんけど。


治五郎さんは、柔道を広め、オリンピックの正式競技にするため、世界中でデモンストレーションを行いました。その活動がこういう形で実を結んだのではないかと想像させるには充分な設定です。アレンはまーちゃんが言うとおり「インドネシアの嘉納治五郎」なのでしょう。

ということで、今回ドラマ上のヒーローはアレン一択なのですが、残念なことにスポーツは「政治」の前に屈してしまいます。それはすなわち「スポーツと政治は別だとあれほど口を酸っぱくして言ったじゃないか」という治五郎さんのオリンピック精神の敗北であり、それを継承するまーちゃんの敗北でもある。

では、この勝負に勝者はいるのでしょうか。いるとしたら、あの人なんでしょうか。


正義の反対

川島正二郎は、このドラマでは珍しい悪役らしい悪役です。こういう人が最初から登場していれば、視聴率も高かったのかもしれませんが、どうしても純粋な悪役とは考えにくい。それは河野一郎のこのセリフから伺えます。

「おまえがスポーツを好きなように、あいつは政治が好きなんだ」

川島正二郎が行なった政治とは、「インドネシアの体面を守ってやることで、日本との関係を強化した」ことです。これは裏を返せば「台湾とイスラエルとの関係は(当面は)捨てた」ということです。川島にとって、オリンピックは手段のひとつに過ぎません。

この選択には「津島おろし」というおまけもついてきます。さらに新聞記者時代からウザかったまーちゃんもまとめて葬ることができる。こりゃもうインドネシアが稀少なマングローブ林を犠牲にして養殖したロブスターなみに美味しかったはずです。

史実としての川島正二郎は、オリンピック担当大臣として組織委員会を官主導に切り替え、結果的にオリンピック成功の一端を担います。また、最近アメリカ政府が開示した資料で、じつは沖縄返還の立役者であったこともわかりました。
まーちゃんの心の底に「オリンピック愛」があるように、川島はあくまで「国益最重視」で動いているんですね。


ちょうど東京オリンピックの年、1964年に発表されたボブ・ディラン3枚めのスタジオアルバム『時代は変る“The Times They Are a-Changin”』に収録されている
『いつもの朝に(One Too Many Mornings)』という歌に、こういうフレーズがあります。

You’re right from your side  I’m right from mine
きみから見れば 君が正しい  ぼくから見れば 僕が正しい
ーBob Dylan “One Too Many Mornings”




これ、みうらじゅんの『アイデン&ティティ』でも引用されてましたし、劇団マクガフィンズの芝居に、そのまんまの演目があります。つまり、「正義の反対は悪ではなく、また別の正義」のことですね。

お互いに認め合って、ちょうどいい落としどころを見つけられたらいいのですが、残念ながら「政治」の前にまーちゃんは散ってしまうのでした。来週は号泣対策にタオルが必要そうです。
 

勝敗の先へ

『いだてん』は敗者の物語でしたが、思うにほとんどの人は敗者なのです。たとえば、金メダルを獲れる人は1人だけ。1等賞でなければ勝者でないとすれば、1人を除き、それ以外の全人類が敗者です。そして勝者の椅子も永遠ではありません。今大会で金メダルでも、次回はどうなるかわからないからです。

ボブ・ディランの『時代は変る“The Times They Are a-Changin”』は、まさにそれを歌っています。

And the first one now will later be last    For the times they are a-changin’
いまの一番もいずれビリッケツになる    時代は変わっているのだから
ーBob Dylan“The Times They Are a-Changin”

一見、勝者に見える川島も、じつは長男を11歳で亡くす悲劇に見舞われています。
ちょっとネタバレになりますが(史実なんだから、しょうがないじゃんねぇ)、内閣改造があって東京オリンピック開催時には担当大臣も河野一郎に。そしてその河野一郎とはのちに成田空港設置でやりあうことに。アジア大会の事件から60年以上たつのに大河ドラマで悪役にされて、ほんと勝ちっぱなしの人などいないのです。

思えば、第2部初回(第25回)のサブタイトルが『時代は変る』でした。まーちゃんの物語の通奏低音として“And the first one now will later be last ”というフレーズが響いていたのでした。

敗者の物語とは、結局のところ、わたしたち一人ひとりの物語なのです。これは極論だがね、人類はみんな敗者なんだよ。 …と、治五郎さんが言うかどうかはわかりませんが、人生は勝ったり負けたりです。絶対正義もいなければ、絶対悪もいない。

 だからせめて映画やドラマは、わかりやすい物語が支持されるのでしょう。現実社会が白黒つけがたく、ストレスフルなので、人はエンターテインメントとして勧善懲悪のストーリーで心のバランスをとるのです。とくにテレビドラマは片手間で視聴されることも多く、展開が複雑だったり、登場人物が多く、人間関係がこみいった群像劇などは、敬遠されやすい傾向にあります、どこぞの大河ドラマみたいに。

『いだてん』が見せようとしているのは、この灰色の時代、勝敗を超えたところにある世界ではないかという気がします。泣いても笑っても残りあと4回です。


今回のサブタイトル/ヘルプ!

ビートルズナンバーのクレジットは、たいてい「レノン、マッカートニー」ですが、ほぼジョンが作った曲です。リードヴォーカルもジョン。



なにげなく聞いてると、恋人に助けを求めるラブソングのように聞こえますが、じつは突然世紀のアイドルになってしまったことに対するジョンの悲鳴なのでした。

『ヘルプ!』がリリースされた1965年には、ローリング・ストーンズが『サティスファクション“(I Can’t Get No) Satisfaction”』を、ザ・フーが『マイ・ジェネレーション“My Generation”』をそれぞれ発表。ロックが若者の怒りを代弁するメッセージを歌詞にのせるようになったのが、ちょうどこの頃でした。

この曲は、もともとビートルズ主演映画第二作のための主題歌でしたが、ジョンもポールもなかなか映画のタイトルっぽい曲ができずに悩み、結局これに落ち着いたらしい。リンゴの指輪をめぐって某国のカルト教団に狙われる冒険コメディで、ビートルズの楽曲にのせて、イギリス、アルプス、バハマまでロケを行なっています。ナンセンスではあるけど、コメディとしては評価が高く、日本のグループ・サウンズを主役にしたアイドルのドタバタ映画の原型といえばこれ。

ビートルズ主演の映画はドキュメンタリーからコメディ、アニメーションまで豊富にありますが、彼らの現役時代に製作されたのは年代順に以下の5本。


『ハード・デイズ・ナイト』もそうでしたが、本作でも主役はリンゴ。監督のリチャード・レスターいわくカメラの前に立ったとき、リンゴがいちばん自然に動けたからだそうです。この後、リンゴはたびたび俳優や声優として活動しています。ミュージシャンとしてはビートルズ4人目の存在だったリンゴも、スクリーンではつねに中心でした。

映画といえば、最近公開された『イエスタデイ』でも、この曲は印象的に使われています。なぜか突然ビートルズの存在しない世界に放り出された売れないミュージシャン・ジャックは、ビートルズの曲を自作と偽って、大人気になります。でも、売れれば売れるほど、いつか盗作がバレるのではないかと恐れ、精神的に追い詰められていきます。それがピークに達したとき、ループトップコンサート(ここらへんが『レット・イット・ビー』へのリスペクト)で演奏するのが『ヘルプ!』。パンク風のアレンジで、この作品中でもいちばん力のこもった演奏が聞けます。



この映画については、ビートルズのファンであるほど、いろいろ言いたいことがあると思うのですが、あるワンシーンがあったおかげで、すべてチャラにすることにしました。この映画見て1週間くらいは思い出して「じわっ」としてましたので。

さて、次回は『ぼくたちの失敗』。
森田童子さん、昨年、亡くなられていたのですね。
ドラマでは、まーちゃん史上、もっともつらい決断が描かれます。とはいえ、『いだてん』のことなので、お笑い要素もありそうで。


ドラマの登場人物が国旗考証でスタッフに入っているのも異例なら、ひとつのドラマに同じ役者が違う役で出演するのも異例中の異例では…前例があったら教えてほしい。
いま、吹浦忠正さんの『オリンピック101の謎』読んでるけど、おもしろいよ。吹浦さんの国旗愛が半端ない。今回の模擬聖火リレーのシーンでも旗が効果的に使われました。この後も、たくさん国旗が出てくるはずなので期待してます。



ネタが尽きない『いだてん』、次回も楽しみです。

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