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満州でなにが起こったか〜『いだてん〜東京オリムピック噺』第39回 懐かしの満州

大河ドラマ『いだてん』ブログをお送りしています。



1964年、読売巨人軍の祝勝会の余興の最中、脳出血で倒れた志ん生は、病院のベッドでかつて五りんの父・小松勝に助けられたことを語り始めます。1ヶ月の予定で、圓生とともに満州に慰問に訪れた志ん生は、脱走兵だった勝に会っていました。なりゆきで行動をともにすることになった3人。なかなか帰国できないまま、日本に逆風が吹き荒れる満州で終戦を迎えます。そんななか、「すこしでも笑っていたい」と寄席には客が集まり、圓生は『居残り佐平次』を、志ん生は勝の提案を受け入れ、走る姿勢を整え、日本橋を芝に変えた『富久』を演じます。感激した勝は、絵葉書に「志ん生の富久は絶品」と書いて投函しようとしたところを、ソ連兵に見つかってしまい…。
その後、志ん生は命からがら日本に戻り、やがて名人の道を歩み始めます。


<あらすじ>
脳出血を起こして倒れた志ん生(ビートたけし)は一命をとりとめ、弟子の五りん(神木隆之介)に、戦争中に満州へ兵士たちの慰問興行に行ったときのことを語りだす。三遊亭圓生(中村七之助)と共に満州を巡っていた孝蔵(森山未來)は、小松 勝(仲野太賀)と出会っていた。やがて終戦。おりん(夏帆)は帰国しない孝蔵の無事を占ってもらおうと、日本橋のバー「ローズ」を訪ねるが、そこに田畑(阿部サダヲ)が現れる。(NHK公式サイトより)

宮藤官九郎がいちばん書きたかった回

それが今回だったそうです。ちなみに、いちばん書いていて消耗したのは『226』だったとか。

この回で、落語とマラソンとオリンピックがすべて重なります。この回は志ん生と圓生と小松勝の回。
もう、オープニングからして違ったもんね。小松勝が暖簾をくぐったとたんに聞き慣れたあのファンファーレ!
そして、地を這う金栗足袋…。


戦争を知らないわたしたちも、戦争がどんなに悲惨な結果をもたらすかは知っています。勝てばよいわけではなく、勝っても戦死する人はいますし、家をなくす人も大勢います。
戦争の悲惨さや残酷さは、まず経験者である親世代から聞きました。60年代から70年代にかけては、ベトナム戦争の影響で、ラジオから反戦歌も流れていました。
原爆ドームを訪れたり、本を読んだり、ドキュメンタリーを見たり、映画やドラマを通して、「戦争は絶対に反対」というのが染み付いています。

映画は大好きですが、最後まで観る根性がない作品がいくつかあります。『プライベート・ライアン』の戦闘シーンは、途中で目を覆ってしまいました。『ジョニーは戦場へ行った』は、トラウマ映画です。どちらも名作ですが、ひとに勧めるには憚られます。

でも、『いだてん』は何度でも繰り返して観られます。この回は3回観ました。そして、見るたびに泣いて笑って「いまはいい時代だ」とかみしめるのです。

分隊長は、なぜ裸になったのか

小松勝の分隊長を演じたのは、『あまちゃん』で派手なアイドルヲタを演じた大人計画の村杉蝉之介です。たったワンシーンですが、「どこにでも逃げろ」と言って、みずから褌一丁になって隊を離れます。


なぜ裸になったのでしょうか。それは陸軍の服装のままでは脱走兵だとわかるからです。敵味方いずれに見つかっても殺されます。
裸でも殺されるかもしれないけど、どこかで中国人の服を盗んで街中に紛れてしまえば、少なくとも敵兵の目はごまかせるかもしれません。日本兵の格好のままでいるより、生き延びる確率は上がりそうです。

小松勝も終戦までは帽子こそ被っていますが、陸軍とすぐわかるゲートルは外して、上着も着ていません。終戦後はその帽子も捨ててしまいます。

港でウォッカを売っていた美川は、満州人に化けていました。服装、外見はアイデンティティです。美川は強烈な個性をもったキャラなのに、アイデンティティは生き残るために捨てられる。そういういい加減さがサバイバーの条件なのかもしれません。

分隊長の「裸」と美川の「変装」。笑わせることはなにもやっていないのに笑ってしまう。「服」と「外見」で表現されたことが、とても興味深かったです。

名人「志ん生」の誕生

森山未來の孝蔵は絶品です。語りもうまい。こんなにいい役者だとは知りませんでした。

いわゆるイケメンではないけれど、いい雰囲気があるんですよね。それこそ「フラ」かもしれません。
ひとつだけ違和感があるとしたら、彼が年食ったら北野武になることです。
たけしが志ん生に心酔しているのは知っています。晩年の志ん生を彼が演じることを不自然には感じません。



ただ、森山未來と北野武の間の距離がはなはだ遠い。そこが気になっていました。


でも、圓生役の七之助さんが特殊メイクをして病室に入ってきたとき、そうか、孝蔵も20年経って特殊メイクをしたのだなと。
…知らんけど。


これで孝蔵はもう出演しなくなったらやだなぁ。治五郎ロスより孝蔵ロスになりそうです。
前にやった志ん生のふたりの息子役でもいいから、最後まで出てほしいな。


第39回のサブタイトル/懐かしの満州

この作品を観ていないので、観ていないのに紹介するのはアレなのですが。
毎回、『いだてん』のサブタイトルを紹介してきて、「初耳」は、これが初めてです。amazonで検索したら、これがヒットしました。 



ドキュメンタリー番組を制作するときに挿入される、満州の記録映像は、これが出典ですね、たぶん。

満州からの引き揚げがどれほど大変だったかは、昨年放映されたNHKの特集ドラマ『どこにもない国』で描かれました。
終戦後、満州に取り残された日本人は170万人といわれています。連合国軍総司令部のマッカーサー元帥と直接交渉するなどして邦人引揚に尽力した丸山邦雄さんを主人公にしたドラマです。



原案になった本はこちら。著者は丸山邦雄さんの息子さんです。


これにもショーケンが吉田茂役で出ていました。ジョン・コルレオーネばりのマウスピース。



日本が負けたと同時に、満州の日本人街は襲われ、女は暴行されます。それは、かつて日本人がしたことです。立場が変わっただけなのです。
弱い者をいじめるのは、◯◯人だからじゃなく、人間なら誰もが持ちえる心理です。サルにもニワトリにも「いじめ」はあるそうです。つまり、弱い者いじめは動物の場合、自分の身を守る本能だといわれています。でも、人間が獣とおなじでいいのでしょうか。


大河史上最低視聴率をまた更新してしまった今回ですが、ぜひ、再放送を見てほしいです。そして『どこにもない国』も再放送してほしいです。

さて、次回のタイトルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。
ネタが尽きない『いだてん』、次回もたのしみです!

※タイトル画像キャプチャ:NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』公式サイト


■参考:
「志ん生が満州で自殺未遂?」『いだてん』で宮藤官九郎が一番書きたかった回とは(近藤正高/文春オンライン:2019年10月13日)
内野聖陽「大切なのは想像力」次代へ送る実話ドラマ(日刊スポーツ:2018年3月5日 

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