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京都プラチナコレクション2019 インタビュー:見寺 貞子さん、Meeさん

「ユニバーサルファッション」ってなに?

 

「京都プラチナ・コレクション」でモデルのみなさんが着用するのは「ユニバーサルファッション」と呼ばれるもの。「ふつうの洋服とどう違うの?」「 そもそもユニバーサルファッションってなに?」 について、今回、衣装デザインとスタイリングを担当するMeeさんと一緒に、この分野の第一人者で、啓蒙と普及に力を入れておられる、神戸芸術工科大学芸術工学部ファッションデザイン学科の見寺貞子教授にお話を伺いました。
見寺教授からは、ショーのために衣装・アクセサリーなど、貴重なコレクションをご提供いただいています。
このショーがユニバーサルファッションについて、理解が深まるきっかけになれば、主催者としてこんなにうれしいことはありません。

「ユニバーサルファッション」は、身近なもの

ーー見寺先生は、ユニバーサルファッションの普及に尽力されています。ユニバーサルファッションのウェアとはどういうものですか。

見寺貞子教授(以下、見寺)「わたしが『ユニバーサルファッションーだれもが楽しめる装いのデザイン提案』を出版したのは2002年です。いま、17年ぶりに改訂版の執筆を進めています。



前著では、ユニバーサルファッションを「年齢やサイズ・性別・障害の有無にかかわらず誰もがファッションを楽しめる社会環境作りの概念」と定義しまし た。これは、車椅子の使用者だったアメリカの建築 家、ロナルド・メイス氏が提唱した、すべての人に優しい環境づくりをめざす「ユニバーサルデザイン」(※注1)をファッションに置き換えたものです。

現在、街で売られている服は、ファッション性の高いものは若者向けで、機能性が高いものは介護服です。ファッション性が高く、着やすい服が売られるようになれば、誰もが、おしゃれをして外出できるようになりますね。

日本は高齢化が進んで、健康維持のためには運動と食事が大事だと多くの人が知っています。予防医学の重要性も認識されるようになりました。

わたしは、ファッションにもその力があると思っています。外出することは体を動かすことですから、おしゃれをして外に出かけることも健康維持に役立つと思います。
また、外に出かければ人と関わりをもつことになりますね。おしゃれには、自分と社会をつなぐ意味もあるのです。

わたしは高齢者大学で「シニアのおしゃれ学」についてお話する前に、ユニバーサルファッションのことをお伝えしています。おしゃれに効果があるとわかると、みなさん、すごく納得されます。

ユニバーサルファッションとは、より多くの人が元気に楽しく生活できる衣服環境や社会の仕組みをつくることなのです」


ーー具体的にはどんな服でしょうか。

見寺「誰にでも着られ、どこでも購入できる。安心・安全への配慮がある。サイズ調整ができて、着やす く、着せやすい。体型の変化にも柔軟に対応でき、動きやすい適度なゆとりがあって、体にやさしいといったことがポイントです。リメイクやリフォームなどエコの視点も大事です。

たとえば、リボンやベルトなどサイズを調整できるパーツがついたもの。着脱しやすくするために、マジックテープやファスナーが手の届きやすいところにあるものなどです。また、縫い代が外にあるデザインや縫い目のない無縫製ニットは、肌が弱い人も安心して着ることができますね。

最近、ランニングをする人の間で、腕に反射材をつける人が増えています。反射材をつけると、車が50km/hで走っていても57m先でわかります。50km/hで走っている車が止まるのに必要な距離は30m。もし、黒い服を着ていると、26m先まで来ないとわかりません。黒い服だと事故に遭う危険性が高いのです。こんなふうに、身を守るために色や素材を工夫したものも含まれます。

そうは言っても、決して特別なものではなく、穴をあけたり、ボタンをつけたりという簡単なリフォームで、手持ちの服をユニバーサルウエアに変えることもできます。

体型が変わったから、体が動きにくくなってきたか ら、今までの服はもう着られないと決めつけないで、着るためにはどんな工夫が必要か考えることが、ユニバーサルファッションの基本です」

Mee「ユニバーサルファッションというと、難しそうと構えてしまうか、自分は高齢者でも障がい者でもないから関係ないと思うか、反応はどちらかにわかれることが多いです。 
一方でユニバーサルウェアや介護服を知っている人は「おしゃれではない」と思っている…。

そうではなく、もっと身近なもので、デザインや素材の工夫、コーディネートでおしゃれにできるということをこのショーをきっかけに知っていただけたらと思います」

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昨日から出張のはずが 笑える手違いで チケットキャンセルして 今日に取り直し💦 転んでもただでは起きない(笑) 朝6時過ぎに家を出て 神戸芸術工科大学の 見寺教授にお会いしに行ってきました 去年からシニア向けの パターン開発のアドバイスを頂いていて、 北京大学で行われた シンポジウムに 参加させていただいたり、 色々とお勉強を させていただいてるんです。 一般的に デザインはデザイナー パターンはパタンナー と分かれている中 あなたには両方の実力と 素晴らしいバックボーン、 そして、 行動力があるじゃない! 後必要なのは、 シニアの方々のお身体の知識。 そこを私達がサポートして あなたにお伝えしているのです! と言っていただけ ちょっと感激😢 まだまだお勉強途中 心新たに 頑張ります✨ という事で、 今から中国出張です。 #xiuxi#オーダーメイドサロン#滋賀#japan#出張

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一般の人がモデル体験をする意味


ーーシニア世代や障がい者のファッションについて、先生はどうお考えですか。

見寺「最近、シニア向けのおしゃれ講座や健康講座が増えています。いいことだと思いますが、表層的なプログラムにとどまっている感じがして、ちょっと残念な気もします。体操したり、ダンスしたりして健康になる。そこで終わるのではなく、健康になった体でなにをするかが大事だと思います。経験豊かな世代が自分の持っている何かを次の世代に伝えられたら社会貢献になりますね。

じつはこの12月に、神戸市兵庫区で『モダンシニア・ファッションショー』を開催します。今年で15回目になります。やり始めた頃はこんなに続くとは思っていませんでした。

10回目の節目を迎えたとき、田中幸夫監督が「映画にしたい」と言っていただき、11回目のドキュメンタリーを8ヶ月かけて撮ってくださいました。

この作品が、日本だけでなく世界でも公開され、関係者みんなのモチベーションが上がって、自信がついたのでしょうね。なかには「一生やる!」という方まで(笑)。



わたしは教育者として研究し、ファッションデザイナーとして作品で自己表現し、発表しています。一般の方にはなかなかそういう機会はありません。

でも、1年に1回のファッションショーに自らおしゃれして出演することで自己表現ができます。ショーに参加することでさまざまな人と出会い、自分を磨くことができる。そんな自分の姿を見て、元気になる人がいる…。それを楽しみにしてくださっている方たちがおられます。だから、このショーを続けていこうと思いました」

京都プラチナ・コレクション、ファッションの見どころ


ーー冒頭におっしゃった社会貢献につながっていきますね。
では、Meeさん、京都プラチナ・コレクションのファッション・テーマについて教えてください。


Mee
「前半と後半の2部構成で、前半はわたしのデザインした『ユニバーサル・リゾート』、後半が見寺先生のコレクションを中心とした『Renorn(リボーン)』です。

今回、ランウェイを歩くモデルさんは、ウォーキングを指導している山岸加代さんの提案で女性の一生を表すために、年齢順で登場します。前半は25歳から55歳までのグループで、後半は56歳から89歳までのグループになります。

前半の『ユニバーサル・リゾート』は、障がいのある方でもおしゃれを楽しめて、自信を持って外出していただけたらというメッセージを込めてデザインしました。
ユニバーサルファッションを身近に感じていただきたくて、ちょっと見ただけでは、「どこが?」というくらい、ふつうのドレスが中心です。

でも、細身のワンピースは前身頃のフリルで隠したファスナーが大きく開くので、脱ぎ着しやすくなっています。肩と側面が全開するので、麻痺があっても着やすく、着せやすくなっています。それ以外のものもえりあきが大きく、かぶるだけのデザインが中心です。

ストレッチ素材も多く、着て動きやすいだけでなく、シワになりにくく、洗濯しやすいことも考慮しています。

鮮やかな色とプリントは「介護服といえば地味なもの」というイメージを覆したくて選びました。黒いドレスのシリーズは、シルエットはシンプルですが、先ほど先生もおっしゃっていた反射材をデザインの一部に取り入れています」


ーー反射材は、安全服や作業服、メッセンジャーバッグなどに取り入れられていますね。ただ、視認性、安全性、機能性重視で、あまりファッショナブルとはいえません。

Mee「そうなんです。
会場ではわからないと思いますが、フラッシュを使って撮影すると光るんです。その光り方がおもしろく て、服のイメージが変わるんです。反射材を取り入れたことで、ふたつの表情を楽しめる服になっています。会場ではアナウンスをしてもらうので、お客さまにはぜひ、フラッシュありとなしで撮影してほしいです(笑)」



ーー後半の見寺先生のコレクションについては、いかがですか。

Mee「昨年、北京でご一緒させていただいたファッションショーのときのもので、全部わたしが着たい!と思うくらいお気に入りです。

先生のコレクションは、日本や韓国などアジアの布を取り入れた、アーティスティックでインパクトのあるデザインなので、おしゃれと人生経験を積んだ世代でないと着こなせないと思いました。それで後半のメンバーに着ていただくことにしたんです。


また、リサイクルして、価値を「再創造」した作品もあります。新しい命が吹き込まれた作品を50代後半以降の女性が、自分の新たな魅力を発見するために着ていただくのは、主催者の加代さんのモットーである『人生は後半戦がおもしろい!』にもつながります。

その姿を見ていただくことはモデルさんと同世代の方たちへのエールですし、若い方たちには人生の先輩として、素敵なロールモデルになると思います」

――みなさんのランウェイが楽しみですね。ありがとうございました

 

※注1:ユニバーサルデザイン(UD)/ロナルド・メイスが提唱したUDとその7原則について、詳細はこちら(Wikipedia) をごらんください。
UDの身近な事例として、シャンプーとトリートメントのボトルがあります。両者の違いがわかるように、ボトルキャップに突起がついているため、目をつむってシャワーを浴びていても、さわればどちらのボトルかわかります(突起がついているほうがシャンプー)。以前はメーカーによって突起の位置が違いましたが、現在は統一されています。こうした配慮は視力障がいがある人でも、そうでない人にも役立ちます。このように「用と美」を一体として取り扱うのがUDの基本的な考え方です。
今回の「京都プラチナ・コレクション」のスタッフIDやチラシの本文書体、プログラムに掲載した人名(最終行の主催者名を除く)には、誤読が起こりにくい設計のUDフォントを選んでデザインしています。

※このインタビューは、8月22日、神戸芸術工科大学にて行いました。(取材・文責:山田ミユキ)


【見寺貞子プロフィール】
神戸芸術工科大学芸術工学部ファッションデザイン学科教授
大阪府出身。武庫川女子大学および関西ドレスメーカーデザイン専門学校卒業後、(株)近鉄百貨店にて、オリジナルブランド商品企画などを担当。神戸芸術工科大学ファッションデザイン学科専任講師就任後、神戸芸術工科大学教授、デザイン学部長、芸術工学研究機構長などを歴任し、現在に至る。専門はユニバーサルファッション、ファッションマーケティング、ファッションデザイン。
著書に『ユニバーサルファッション』『美しく見えるシニアの服』などがある。 


【Meeプロフィール】
オーダーメイドサロン「XIUXI」ディレクター、障がいのあるお子さま向けのお洋服「ひよこや」デザイナー
エステティシャン、ブライダルの仕事に従事したのち、メーカーのOEM製品を生産する自社工場を中国に持つ縫製業を営む一家に嫁ぎ、ファッションデザインを始める。義母が難病の大脳皮質基底核変性症で寝たきりになり、世のおしゃれな服は着せにくく、デザイン性のない介護服は着たがらないことに気づき、ユニバーサルウェアに興味を持つ。一昨年に開業したサロンでは「すべての方が気軽におしゃれを楽しめる世の中に」をテーマに、一人ひとりの症例に合わせたユニバーサルウェアの提案が好評。レクリエーション介護士2級。


 

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