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「ステイタス」と「好感度」〜『いだてん〜東京オリムピック噺』第33回 仁義なき戦い


大河ドラマ『いだてん』ブログをお送りしています。


イタリアの独裁者・ムッソリーニに1940年のオリンピック招致を譲ってもらうため、治五郎さんの特命をうけた副島、杉村、まーちゃんのサムライトリオ。


会見直前に副島がダウンしたものの、病をおして駆けつけた気合いが心を動かし、なんとか譲歩をとりつける。ところが、かんじんのIOCオスロ総会で、スポーツに政治を持ち込んだ日本のやり方は大炎上。決着は1年後に持ち越しに。
一方、熊本では四三が「あの男」と再会していた。


<あらすじ>
1940年のオリンピック招致をめぐり互いに激しく争う東京とローマ。治五郎(役所広司)は田畑(阿部サダヲ)らをイタリアの独裁者ムッソリーニとのじか談判に派遣する。しかし、ムッソリーニとの会見直前、IOC委員・副島道正(塚本晋也)が急病で倒れてしまう。招致の命運がかかったIOCオスロ総会は、他国の政府首脳に働きかけようとした日本の動きをめぐって大紛糾。絶体絶命の状況下で、治五郎は逆転の秘策を思いつく。NHK公式サイトより)

 

「人気」には2種類ある

そのうちレビューしようと思いながらそのままになっている本がたくさんあります。そのなかの1冊『「人気」の法則』をちょこっと紹介します。



タイトルからいって自己啓発系かと思いきや、脳科学と行動心理学の本なんです。
わたしたちが漠然と「人気」と捉えているものには、じつは2種類あるんですね。ひとつは「ステイタス」。もうひとつは「好感度」です。

「ステイタス」とは、その人が持つ社会的地位を反映しもの。有名だったり、影響力の大きさによって成立している人気のこと。

「好感度」とは、人として好かれいる結果としての人気のこと。一緒にいて楽しいとか、信頼できるとか、心から共感できるとか。

「好感度」の人は人望によって人を惹きつけ、「ステイタス」の人はその「人脈」ゆえに人を吸い寄せてしまう感じ。

加藤雅也演じる杉村陽太郎は、絵に描いたようなエリート。しかもイケメン(加藤雅也がね。リアル杉村陽太郎はガタイのいいタイプ)。まーちゃんは、水泳大国日本の総監督。天下の朝日新聞記者ですから、そこそこ「ステイタス」ありですが、杉村大使と比べたら霞みます。イケメン度も(ごめんよ)。
まーちゃんは「好感度」、人望のひとなんですね。杉村大使が認めているように。


ステイタスだけの人気者は、好かれる反面、敵も多い。好感度の人気者こそ、自分もまわりもしあわせな愛されキャラです。
「ステイタス」と「好感度」の両方を備えている人こそ、天下無敵の人気者ですが、この本によれば、そういう人は稀なようです。

ドラマでは治五郎さんこそ、そんな人物といえるでしょう。

おそらく当時としては日本トップクラスの「ステイタス」を体現していた杉村陽太郎にも、まーちゃんや治五郎さんが持つ「好感度」、すなわち人望が欠けていた。

それでも欠けていることを素直に認めるだけ、エラソーなだけのエリート野郎じゃないんですね。立て板に水の英語スピーチのシーンより、トイレで「チクショー!」と叫び、まーちゃんに弱音を吐いてるシーンはかなりセクシー(加藤雅也がね)。


能力や社会的ステイタスがどんなに高くても、ぽっと出てきただけでは認められない。治五郎さんがIOC委員たちから信頼されているのは、すでにゆるぎない人間関係を育んでいるからです。まーちゃんが「海を超えたジジイ同士の友情」と言ったとおり。

そういう信頼関係を築くには時間が必要です。好感度が高い人は、他人の懐にするっと入っていけるんですね。

杉村大使に、この本をおすすめしたくなりました。いや、彼はその後も邁進し、幻となったはものの、1940年東京オリンピック招致の立役者となります。その後の努力によって「好感度」も身につけたのでしょう。

「人気者」として自分がどういう資質を持っているかは、子どもの頃から現れていて、その傾向は成人してからも続くそうです。でも、自助努力によって変わることも可能と研究で立証されています。

ざっくり要約するとその最大の秘訣は「和を乱さないこと」なんですよ! そうか、これ、アメリカの研究だったと感慨を深くしました。
日本人には、アメリカ的ないい意味での「押しの強さ」や「自主性」「自信」をうらやましく思っている人が多いように感じますが、彼の国では日本人が得意とする「協調性」の乏しさに悩んでいるわけですからね。


【今回のとりこぼし】
絶対にどこかでしぶとく生きているだろうと思っていた美川が再登場。カフェーを経営していました。

いくらでも重厚に描くことができる今回を、美川のようなドラマ展開的にはいてもいなくてもどうでもいいようなキャラがすらっと入ってくる。スヤさんには「ゴキブリ」と忌み嫌われているけれど、いったいなにがあったんだろう(笑)。


twitterでは美川、大人気です。
こういう人が生きていけるのが、平和な世の証。
ゴキブリにも存在理由があるんですよ。


第33回のサブタイトル/仁義なき戦い

広島ヤクザの血で血を洗う抗争劇。それを題材にしたのが『仁義なき戦い』シリーズ。

戦後の広島抗争の当事者だった美能幸三の手記をベースに、作家の飯干晃一が週刊サンケイに連載したノンフィクションが原作です。

ものすごくヒットしていたことを、当時10代だったわたしも覚えています。リアルタイムでは見ていなくて、後になってテレビで観ました。


監督の深作欣二は「日本のサム・ペキンパー」の異名をとりました。たしかに血がビュンビュン飛ぶところはおなじなんだけど、そんなスタイリッシュじゃないんですよ。ドキュメンタリーみたいに泥臭い。
「実録」を売りにしただけあって、その場にいるみたいにリアル。撃たれたら大騒ぎして、なかなか死なない。めちゃくちゃ苦しくて、痛そう。見ていてこわくなってくるんです。

2作目の『仁義なき戦い 広島死闘篇』は、週刊マーガレットに伝記小説が掲載されたくらい少女のヒーローでもあった千葉真一が、北大路欣也とW主演だったんですけど、これがエロいセリフ連発のエグい野郎で…。川谷拓三は千葉真一に殺される役だったと思うんですが、撮影がハードすぎて死にかけたと言ってるのをインタビューで聞いたことがあります。


で、戦前の価値観では生きられなくなった男たちを描いている作品なわけです。この作品が公開されたのは1973年。世界的にはベトナム戦争末期、日本では全共闘運動が敗北して、怒れる若者が怒りのやり場をなくしてしまった頃です。


このシリーズを製作した東映のかつてのドル箱は、高倉健の『日本侠客伝』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズといった任侠映画。おなじヤクザ映画でも、全然違う。完全に様式美の世界なんです。『仁義なき戦い』シリーズがドキュメンタリーなら、こっちは歌舞伎。




ほんとうはいい人なのに、裏社会で生きなければならなくなった主人公が、悪の卑劣なやり方に対して我慢に我慢を重ね、ついに立ち上がる。道行のシーンには主題歌が流れ…。毎回、同じパターンです。わたし、一時期、任侠物の美学にはまって、シリーズ全作品を繰り返し観ています。

血はピューッと飛ぶけど、展開は読めるし、殺陣は舞のように無駄がないし、斬られたら苦しまずにあっさり絶命するので、観ていてこわくないんです。海外作品だと『快傑ゾロ』シリーズとその派生作品群の世界に近い。スタイリッシュなんです。

『仁義なき戦い』で、東映はこの様式美を捨てたんですね。もう、仁義が通用しない時代になっちゃったから。



さて、次回のタイトルは『226』。
1989年、オールスターキャストで映画化された二・二六事件を題材にした作品です。
この事件で高橋是清が暗殺されるんですが…本作で是清を演じているショーケンは『226』で暗殺する側の野中大尉役で出演してたんですよね。ほんの少し撮影シーンを残して亡くなったと聞いているので、次回登場するのは回想シーンなのかな。

たのしみだけど、ちょっとせつない次回の『いだてん』です。


※タイトル画像キャプチャ:NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』公式サイト

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