人生は、クリエイティブ・ディレクション:50代からの「おしゃれの学校」

明日があるさ〜『いだてん〜東京オリムピック噺〜』第30回 黄金狂時代


大河ドラマ『いだてん』ブログをお送りしています。


第30回、ロスオリンピック8日目。水泳競技が始まります。宮崎選手が100m自由形で金を獲得、水泳チームの快進撃はラジオの“実感放送”で中継されます。ところが、ゴールドラッシュの日本チームにいきなりの赤信号! 有望選手たちが体調不良に襲われ、東京オリンピック招致にはドイツとイタリアが立ちはだかります。
一方、貧乏のどん底の孝蔵は、万朝の高座に触発され、「弟子にしてくれ」と頭を下げるのですが…。


<あらすじ>
1932年、田畑(阿部サダヲ)待望のロサンゼルスオリンピックが開幕。アナウンサーの河西(トータス松本)はレースの実況中継に気合いが入るが、大会運営側からの妨害にあう。田畑たちは実況中継の代わりにレースの模様を放送する奥の手を考える。治五郎(役所広司)はIOC総会でオリンピック招致の立候補を表明する。しかし9都市がエントリー済みという絶望的な状況。東京への招致に、ムッソリーニとヒトラーという2人の独裁者の思惑が影響することに──。NHK公式サイトより)

 

「神」は必ず降りてくる

「実感放送」というネーミングは、ほんとうにああいう環境で決まったのでしょうか。松内アナウンサーが命名した事実はNHKの記録に残っているようですが。


「見たまま放送」「どうも実感が足りない」「スポーツ漫談」「実感が足りませんな」「スポーツしゃべくり放送」「実感が足りない!」「実感放送!!」…。

ネーミングを考えるとき、プランナーやコピーライターの脳内があんな感じになっているのは確かです。あれを一人でやるのです。自分で考えて自分でツッコミを入れるんですね。

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第30回「黄金狂時代」ご覧いただきありがとうございます。 「試合に出られない者もある中で、自分は恵まれていました」 「そもそも嘉納さんは柔道家ですよね? なぜオリンピックで柔道をやらんのです?」 「実感放送じゃない?」 「よくやった宮崎! ありがとう!」 「しっかり頼むよ、甚語楼(じんごろう)師匠」 * #いだてん #黄金狂時代 #田畑政治 #阿部サダヲ #高石勝男 #斎藤工 #大横田勉 #林遣都 #宮崎康二 #西山潤 * #河西三省 #トータス松本 #松内則三 #ノゾエ征爾 * #美濃部孝蔵 #柳家甚語楼 #森山未來 #おりん #夏帆 * #嘉納治五郎 #役所広司

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わたしがコピーライターの学校『宣伝会議コピーライター養成講座』に通っていたのは、23歳くらいの頃。毎回課題が出て、講師がその回の優勝者を発表します。
何度めだったか、「おもしろCM」がテーマになりました。それまで何度か優勝していましたが、このテーマでは勝てないとおもいました。

ちょうどその頃、漫才ブームがあったんですよね。広告の世界もその影響を受けていました。一度聞いたら忘れない強烈なギャグとか、ナンセンスかつ時代風刺になってるとか、そういうことを考えつくのは自分とは全然違うアタマの構造をしてる人に違いないとおもってました。

そうだ、このテーマで優勝した人に、どうやって考えたか教えてもらえばいいじゃん!

そしたら、その課題で優勝しちゃったんですよ。評価された理由は、着想のユニークさでした。困ったな、優勝者は前に出てコメントしなきゃいけない。


「とにかくこういうことが苦手で、1日24時間ずっと考えてました、食べるときも、寝てるときも…これはお風呂に入ったとき、子どもの頃、お風呂であったことを思い出して、それをヒントにしました。どんなに24時間考えようとしてもそれは無理で、人間の集中力には波があります。だからこそ、つねに考えるようにしていると、ふっとなにかが降りてくる瞬間があることは今回わかりました」


そんなようなことを喋った記憶があります。

どんな仕事でも手詰まりになるときがあります。この経験があって、あきらめなければ解決策は見つかると信じられるようになりました。とくにアイデア勝負だと、わたしの場合、自分の考えに自分でツッコミを入れているうちに「神」は必ず降りてきます。


「実感放送」のネーミングを決めるシーンを見て、昔のことを思い出しました。
「神」が降りてくる感覚は、アーティストやクリエイターなら「フロー」、アスリートやパフォーマーなら「ゾーン」と呼ばれます。オリンピックなどで自己最高記録をマークする選手は、こういう心理状態になっているとか。

この研究の第一人者といえば、ミハイ・チクセントミハイ。


自分が「フロー」「ゾーン」に入るパターンを知っておくといいです。人前に出てもあんまり緊張しなくなるしね。



「負け」から始まる

今回の主役は、大横田選手。「1種目も失うな!」を掲げた日本チームが唯一落とした400メートル自由形。

トータス松本演じる河西アナウンサーの実感放送も、歓喜が爆発する宮崎選手の勝った試合より、じつは負けて悔しい大横田選手の放送の方が実感こもってるんですよね。

「どうした、どうした大横田? すっかり止まってしまった!」

止まって浮いてるんじゃない。水を掻き、水を蹴っているのにカラダが重くて進まない。その実感が「すっかり止まってしまった」だったんですね。それが伝わってくる、おそるべし、実感放送。



じつはオリンピックの前年にオリンピックの大河を放送するなんて、プロパガンダじゃないの、と最初は疑いの目で見ていました。
ただ、脚本が宮藤官九郎だと聞いて「それはないわ」と。しかも主役が金栗四三と田畑政治…。

「誰、それ??」みたいな。
最近、音楽の大友良英さんのインタビューが出て、この企画がクドカンの持ち込みだと知ってびっくりしました。

大友良英が『いだてん』に感じた、今の時代に放送される必然性(CINRA.NET 2019.8.13)

 

前回、まーちゃんが「スポーツで日本を明るくしたい」と打ち明けるシーンがありましたが、製作スタッフは「大河ドラマで日本を明るく」したいんじゃないか。ふと、そんな気がしました。


『いだてん』って、負けた人に注ぐ視線があたたかいんです。四三しかり、今回の大横田選手しかり。まーちゃんも日本泳法で挫折した人なので、スタートは「負け」からです。「負けたの? おーよしよし」じゃなく、「負け」を起爆剤にして立ち上がる、がんばる、成長しようとする人を応援する作品なんです。


このところ負けっぱなしの孝蔵も、すっかり腕をあげた万朝の『疝気の虫』に打ちのめされ、再起を決意するようです。ダメになったり改心したり、また慢心して改心する。ふつうの人間はその繰り返し。

ふつうの人、負けた人に「明日がある」ことを思い出させてくれる。そこがこのドラマの好きなところです。


第30回のサブタイトル/黄金狂時代


原題の“The Gold Rush”のほうが、よりふさわしい気がしますけどね。


チャップリンの最初の長編で、本人もいちばんお気に入りの作品だったようです。
そして、この作品をナンバーワンと評していた淀川長治さんの解説つきで、テレビで観たんですよね。

靴を食べるシーンのインパクトが強烈でした。どう見ても本物にしか見えないけど、革は甘草、釘は飴細工、靴紐はイカ墨スパゲッティだとずいぶん後になって知りました。



そういえば、何回か前、五・一五事件が描かれましたよね。この日、チャップリンは来日していて、犬養首相と首相官邸で会うことになっていたそうです。ところがチャップリンが急に「天ぷらを食べたい」と言い出し、官邸にはいなかったために難を逃れたというエピソードを安藤和津さん(犬養毅の孫)がなにかで紹介していました。
チャップリンも「日本に退廃文化を流した元凶」として、標的になってたんですね。そういう時代だったんだな…。チャップリンが『モダンタイムス』で資本主義を、『独裁者』でヒトラーを批判するのは、ロス・オリンピックより少しあとになります。


さて次回は『トップ・オブ・ザ・ワールド』、カーペンターズの名曲からです。
ネタが尽きない『いだてん』、次回もたのしみです!


参考1:「いだてん」劇伴、CM楽曲、わらじまつり改革 最新プロジェクトに一貫する“パーツとしての音楽”の美学(音楽ナタリー)
参考2:放送史への新たなアプローチ(3)「実感放送」伝説の背景(NHK放送文化研究所)
   

※タイトル画像キャプチャ:NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』公式サイト

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