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走るために生まれてきた〜『いだてん〜東京オリムピック噺〜』第26回 明日なき暴走

大河ドラマ『いだてん』ブログをお送りしています。

第26回は、人見絹枝物語でした。
アムステルダムオリンピック、初めてのオリンピック日本代表女子選手にして、初めての日本女子メダリスト。
日本人女性としては規格外だった彼女の、みじかくも激しい一生。


口がいだてんの主人公・田畑政治は、人たらしの本領を発揮。
高橋是清といい、緒方竹虎といい、なぜか目上にかわいがられているような…。

<あらすじ>
アムステルダム大会が迫り、体協が相変わらず資金難に苦しむなか、田畑政治(阿部サダヲ)は記者人脈をいかし、政界の大物、大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)に選手派遣のための資金援助をじか談判する。アムステルダム大会では女子陸上が正式種目に。国内予選を席けんした人見絹枝(菅原小春)はプレッシャーに押しつぶされ、期待された100メートルで惨敗。このままでは日本の女子スポーツの未来が閉ざされる──。絹枝は未経験の800メートルへの挑戦を決意する。(NHK公式サイトより)



いやもう、これまででいちばん泣きました。

本日の主役は、この方。

菅原小春さんは、ドラマ初出演。
「すごいものを見た」としか言いようのないシーンをもう一度↓。

織田役の役者さんが勢いに押されたのか、口に手を当てています。
これ、もしかしたら演技じゃないかもね。

スタッフ試写では、このシーンですすり泣きが聞こえたとか。


小春さんの演技は決して自然でもうまくもありません。
でも心を揺さぶられるのは、演技を超えたところにあるものが、見る側に伝わるからです。

演技を超えたところにあるものってなんだと思います?


真実ですよ。






彼女の演技を見て思い出したのが、かつて『太陽にほえろ!』で、初めて拳銃で人を撃ち殺したマカロニが子どものように泣きじゃくるシーンです。
大人の男があんなにもみっともなく泣く姿を見たのは、たとえ演技でも初めてでした。

その激しさに、人の命を奪うとはどういうことかを知りました。

なぜ人を殺してはいけないのか。
どんな理屈より、あのシーンが教えてくれた気がします。

演技でどういうふうに泣くかというのも含め(テレビドラマの)お芝居というのが分からないところがあって。私、たぶん、家でもあんなふうに泣いているんですけれど(笑い)。役を作り込んだという実感はなくて、ドラマの登場人物の境遇に思いをはせたら、自然とああいうふうになって(泣いて)いた。


これは、マカロニを演じた萩原健一ではなく、今回、人見絹枝を演じた菅原小春さんへのインタビュー(菅原小春さん「見た方がいいです。見てください」 世界で活躍するダンサーが「いだてん」人見絹枝役でTVドラマ初出演:毎日新聞)

じつは、あのときのショーケンも演技ではなく「素」だったと、あとになって知りました。
きっと小春さんもおなじようなアプローチをしたのでしょう。


ショーケンは、本作が遺作になりました。

田畑政治に対して「キミは怖い者なしだな」と笑うシーンに、「いやいやそのセリフは、若い頃、アンタが石原裕次郎はじめ大物俳優にさんざん言わせてきたことやろ」と突っ込んでしまいました。
そんなショーケン最後の作品に、かつての彼を彷彿させる才能があらわれたとは。


前を走る人が、後からくる人になにかを伝えていく。
わたしたちはその連鎖のなかにいます。


前を走った人がいるから、いまの自分たちがあることを忘れないでいたいと思います。


【今回のタイトル:明日なき暴走】


ブルース・スプリングスティーンの『明日なき暴走』は、いろんなバージョンの公式ビデオが公開されていてうれしい。

なかでも、初来日(1985年)のライブに行ったときといちばん年代の近い1980年のを貼っておきます。


 



毎回タイトル選びに唸りますね。

この曲の原題は、“Born to Run”、つまり「走るために生まれてきた」。

人見絹枝はドラマでも紹介されたように、24歳の若さで亡くなっています。
その日、1931年8月2日は、彼女がアムステルダムで銀メダルを獲ったちょうど3年後。


オリンピック帰国後の彼女は全国各地から講演にひっぱりだこになり、また後進の指導にも熱心だったことから、度を越したハードワークで命を縮めたと思われます。
彼女は走るためにうまれてきたけれど、それは明日なき疾走だった。

そう結論づけるのはすこし悲しいけれど、誰かに走らされたのではなく、彼女が自分の意志で駆け抜けたことを願うばかりです。


ボスことブルース・スプリングスティーンが、同名曲をタイトルとする自身3枚目のアルバムを発表したのは、1975年。

映画のヒットも記憶に新しい『ボヘミアン・ラプソディ』を含む『オペラ座の夜』が発表されたのと同じ年です。

つまり、この時代はレッド・ツェッペリンもピンク・フロイドも健在、ジョン・レノンが活動休止に入る前で、ボブ・マーリーに世界が驚愕し、イーグルスは伸び盛り、10c.c.が絶好調、フランク・ザッパがあの『ワン・サイズ・フィッツ・オール』を世に問い、ロッド・スチュワートが大西洋を渡って、ボブ・ディランが『欲望』と『血の轍』と2枚もアルバムを発表、このあいだ紹介したエルトン・ジョンは『キャプテン・ファンタスティック』を出し、くしくも3大ギタリストが揃って新作を発表した年。

…って、長いよ!

ロックは大豊作の時代だったのです。
パンク、ニューウェーヴがフロントロウに登場する直前。

いろんなものが豊富にあった。

まさに爛熟期で、凝ったサウンドが当たり前になりました。
クイーンがわざわざアルバムに「シンセサイザーは使っていない」と書くことで存在感を示していたくらい。

そこにどストレートなアメリカン・ロックンロールをぶちこんだわけです。
ものすごく、新鮮でした。



人見絹枝は文字通りおのれの脚で走りましたが、この歌で走っているのは自殺マシンことオートバイです。

夜の街をバイクでぶっ飛ばし、「今夜、この道でおまえと死んでもいい」と歌います。
ああ、まさに明日なき暴走…でも、死なない方がいいよ、死んだらおしまいよ。


人見絹枝が命がけでつないだバトンは、前畑秀子へ。
次回のタイトルは『替り目』。

ありゃ、志ん生の奥さんもクローズアップされるのかしら。

ネタが尽きない『いだてん』、次回もたのしみです!
では、本日もアドバンストな1日を。

 



※タイトル画像キャプチャ:NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』公式サイト

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