映画における衣装の役割 

ファストファッション全盛の現代にあって、“洋服と共に生きる”という、この作品のテーマは、ファッション好きの方にはいろいろと考えさせられることが多いでしょう。

・・・まあそれはそれとして、ここでは“ブランドイメージ・プロデューサー”的に、映画における衣装の役割について考えてみます。

 

映画やドラマにおける衣装は、ファッションではありません。

キャラクターの表現、です。

“このひとは、こんな役”というのが、ひとめでわかること。

つまり、役柄の性格や生き方といった内面や社会的立場などをわかりやすく表したものが、映画やドラマにおける衣装です。

そういう意味で、中谷美紀演じる主人公・南市江のキャラクターを表現するために、“青”がとてもうまく使われていました。

彼女は多くのシーンで青系の衣装を身につけています。

青系以外は黒、あるいは青と黒の2色づかい。

これもとても象徴的です。

 

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青色の濃淡が心の変化を表す

まず、彼女をもっともよく表している作業着(タブリエドレス)。

藍色とも紺色とも違う、深みのある複雑な色調は、5回も染め直して出した色だとか。

青といえば、誠実さ、まじめさ、さわやかさをイメージさせますが、単純ではない色調に、一筋縄ではいかないキャラクターが滲み出ています。

そう、藤井が言ったように“頑固じいさん”みたいな。

 

 

この作業着ですが、黒の縁どり(パイピング)がアクセントになっています(上の写真を参照)。

袖をまくると裏地も黒であることがわかります。

黒には、プロフェッショナルで厳格なイメージがあります。

職人の内なるプライドを表現しているんでしょう。

くるぶしあたりまである長さと、たっぷりと全身を覆い隠すようなシルエット。

この作業着は、プロの仕立て屋である市江の戦闘服であると同時に、彼女の本心を隠す鎧でもあるわけです。

 

図書館で偶然、藤井に出会った日。

市江は、グレイがかった青のストールを身に着けています。

ひとりで過ごすつもりだったから、神戸の街によく馴染む、渋くて落ち着いた色調を選んだのかもしれません。

でも、ゆったりした巻き方が大胆で、こういうことがさらりとできるのは明らかに洋服を着慣れたひとです。

目立つつもりはないのに人目を引きつけてしまい、ちょっと近寄りがたい・・・そんな側面を感じさせる着こなしです。

 

一方、人に会うために外出するときは、鮮やかなロイヤルブルーに黒をコーディネートしています。

強い色を身につけると、相手に対して押し出しがきくんですよね。

そして色のパワーで自分自身を鼓舞することもできる。

これも不器用な彼女なりのコミュニケーションのとり方なんだと思って見ていました。

 

ラストシーンでは、作業着を脱いで、淡い水色のシャツをまとっています。

そういえば市江のパジャマも、こんなパステルブルーでした。

これが飾り気のない彼女を表す色なんでしょう。

彼女にはもう鎧は必要なく、素の心をさらせるようになったわけですね。

 

衣装に使われた青色の変化から、市江のキャラクターとその内面の変化を読み解いてみると、映画をよりいっそう楽しめるのではと思います。

 

映画『繕い裁つ人』公式サイト

  

 

 

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miyuqui yamada

講師、講演家、コンサルタントなど人前に立つ人の外見と内面を装いでイメージアップする専門家。 34年間クリエイティブ業界において、アパレル、化粧品、流通大手企業をクライアントに、広告制作・販促・編集企画のディレクターとして、数百回のプレゼンと2500名以上の成功者の取材・寄稿に関わり、「勝つ人」「成功する人」の外見に興味を持つ。92〜95年、外資系化粧品会社にて2000名以上の女性にメイクとファッションのセミナーを実施。2014年STYLE&PLAN設立。自身のプレゼン、講師経験をもとに衣装を担当したクライアントがセミナー講師コンテスト入賞・優勝を続々と果たす。その勝率は8割。「セミナー講師、服装」の検索においてはGoogle検索1位。