亡くなった父は典型的な昭和ヒトケタ男でした。

最後まで気が合わず、「犬猿の仲」というほどではありませんでしたが、「水と油」ではありました。

どっちが「水」で、どっちが「油」かはわかりませんが。

 

わたしは子どもの頃から、あらゆる意味で父に似ないように努力してきました(笑)。

たとえば、父はまったくおしゃれではありませんでした。

身につけるものには、なんのこだわりもなかったようです。

たったひとつを除いては…

 

父は、靴だけは大事にしていました。

なぜ靴なのか。

どこに惹かれるのか。

ついに聞けずじまいでした。

 

insidehenderson / Pixabay

 

父は家族の靴箱の半分を占めるほど、革靴を持っていました。

ほとんどがオーダーシューズでした。

一流店で誂えたものではありませんが、仕上げが丁寧で、履いても変なシワやふくらみができない。

いつも形がきれいに整っていました。

きっと、足に添うからでしょう。

紳士靴のいいものは、すぐわかります。

それは父がいつも履いていたような靴です、長年見てきましたから。

 

そして週末になると、靴箱からズラーッと出して靴磨きを始めるのです。

 

新品かと見まがうほど、よく磨きこんでいました。

なんでも母任せで、自分はなにもしないひとでしたが、靴だけは誰にも手入れさせませんでした。

 

靴磨きをしている父は、とにかく集中していました。

声をかけると「あっちへ行け」と言われました。

 

わたしは子どもの頃から、あらゆる意味で父に似ないように努力してきました(また言う)。

でも、靴を磨くのは好きです。

まめに化粧革を取り替えるし、ちょっとした傷なら自分で補修します。

靴磨きについて、なにも教えられませんでしたが、こういうことは見ているうちにいつのまにか覚えてしまうものなのでしょう。

 

insidehenderson / Pixabay

 

長谷川裕也さんの『靴磨きの本』の冒頭。

お客さんに「靴磨きを勉強しなさい」と言われた長谷川さんが、遠巻きにベテランのおじさんのやりかたを観察するエピソードが紹介されています。

自分とは比べものにならないほど、おじさんが磨いた靴はピカピカになる!

そこに衝撃を覚えた長谷川さんは、見よう見まねで自宅で再現。

みごとに靴を光らせたことから、靴磨きの世界にのめりこんでいきます。

 

靴のメンテナンスをしない人たちにとって、それはただただ面倒で不要なもの。

靴磨きの習慣がない親のもとで育てばやむをえないのかもしれません。

 

とはいえ、やってみればわかりますが、靴磨きは単なる“お手入れ”ではないのです。

一心に磨いているとき、なぜ父が「あっちへ行け」と言ったかはわかります。

靴を磨きながら、アタマとココロも修復しているのです。

 

いや、実際のところ、靴磨きの心理的な効用なんてわかりません。

ただ、専用の道具を使って正しく磨けば、靴は間違いなく光ります。

その達成感でじゅうぶんなのです。

 

服とおなじように、靴も思った以上に心身に及ぼす影響が大きいもの。

昔から「足もとを見る」「足もとを固める」「足をすくう」など、足にまつわる慣用句には、身近なところでの自身の立ち位置というか、よりどころのようなものを問われているように感じます。

さらに、合わない靴を履いた日には足を痛めてしまいます。

テンションも下がります。

すこし大げさかもしれませんが、靴を軽んじるひとは、結果的に人生をも軽んじることになるのではないでしょうか。

 

JamesDeMers / Pixabay

 

わたしは子どもの頃から、あらゆる意味で父に似ないように努力してきました(まだ言うか、笑)。

父は言葉ではわたしを躾けることはできませんでしたが、たいせつなことは、無言の背中が教えてくれました。

 

靴磨きの習慣がない親をもった方には、長谷川さんの本がよき指南役になってくれます。

どの見開きも180度まったいらに開けるコデックス装(※1)という製本は、目的のページを見ながら靴磨きに集中できるでしょう。

腕のいい職人が仕上げた靴のように、装丁だけでなく用紙も写真も書体のセレクトもレイアウトも行き届いた美しい本です。

それは、スーツにポケットチーフを挿してカウンターに立つ長谷川さんの佇まいそのものでもあります。

 

では、本日もアドバンストな一日を。

関連記事:わざわざ靴を磨いてもらいに出かける。そんな時代を作りたい。|マーケターの企みVol.19:㈱BOOT BLACK JAPAN 代表取締役 長谷川裕也さん 

靴磨き専門店Brft H 公式サイト

※注1:この製本法はベストセラーの『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』でも採用されています。背表紙をつけず、糸でページを綴じる方法のこと。 

 

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miyuqui yamada

講師、講演家、コンサルタントなど人前に立つ人の外見と内面を装いでイメージアップする専門家。 34年間クリエイティブ業界において、アパレル、化粧品、流通大手企業をクライアントに、広告制作・販促・編集企画のディレクターとして、数百回のプレゼンと2500名以上の成功者の取材・寄稿に関わり、「勝つ人」「成功する人」の外見に興味を持つ。92〜95年、外資系化粧品会社にて2000名以上の女性にメイクとファッションのセミナーを実施。2014年STYLE&PLAN設立。自身のプレゼン、講師経験をもとに衣装を担当したクライアントがセミナー講師コンテスト入賞・優勝を続々と果たす。その勝率は8割。「セミナー講師、服装」の検索においてはGoogle検索1位。